・正史全訳
まずは正史全訳の通読が基本になる。
中国正史の訳出状況について、国立国会図書館でまとめられている。
https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/asia/post_73
史記、漢書、三国志については、価格や入手難易度などから筑摩のものが標準的なテキストになっている。
後漢書について、岩波と汲古書院のものとどちらを優先すべきか悩ましい。最近出版されている早稲田文庫のシリーズで全訳が揃うかどうかに注目している。
史記、漢書、後漢書、三国志以外の正史全訳は無い。つまり、魏晋南北朝に関わる正史は、ほとんど全訳されていないのだ。
部分訳については、下に挙げる他の選択肢の方を優先すべき思われ、省略する。晋書、北斉書については部分訳の書籍がある。
晋書に関しては、ネット上で日本語訳の試みが幾つかなされているが、全訳には至っておらず、訳出の精度や引用の是非など利用上の課題もあると考え、本サイトでは参考程度に止めている。
・概説書
次の選択肢として、日本語の概説書が挙がる。情報ソースとしての精度から、学識者による本を選ぶべきであろう。
魏晋南北朝については、「魏晋南北朝(通称川勝本)」、「中華の崩壊と拡大 魏晋南北朝(通称川本本)」が定番であるが、「五胡十六国(三﨑良章)」、「北魏史(窪添慶文)」、「南北朝時代(会田大輔)」、「中華を生んだ遊牧民 鮮卑拓跋の歴史(松下憲一)」など徐々に充実しており、日本語ソースのみでもそれなりに議論できる環境が整いつつある。
・正史原文
とはいえ、現在の日本では、魏晋南北朝史に関して一定以上の深い議論を行おうとすると、正史原文に当たることが避けられない。
中国正史の原文に関する情報は、国立国会図書館でまとめられている。
https://ndlsearch.ndl.go.jp/rnavi/asia/post_159
まず参考とすべきデータベースは下の2つであろう。
台湾中央研究院(漢籍電子文獻資料庫)
https://hanchi.ihp.sinica.edu.tw/ihp/hanji.htm
京都大学人文科学研究所(漢籍リポジトリ)
https://www.kanripo.org
書籍では中華書局のテキストが基本となる。中華書局では正史二十四史の修訂作業が行われており、2024/4/1時点で刊行されているのは、史記・宋書・南齊書・梁書・魏書・隋書・舊五代史・新五代史・遼史・金史の10史である。魏晋南北朝を語る上で最も大きいウエイトを占める晋書はまだなので、発刊が待たれる。
底本によってテキストの異同があるため、正確な原文を追及する場合は覚悟が必要である。
・資治通鑑と関連書籍
正史とは別に、魏晋南北朝史を語る上で欠かせないテキストとして資治通鑑がある。
資治通鑑の全訳は、「続国訳漢文大成 経子史部」にあり、国会図書館デジタルコレクションにて自由に閲覧可能である。
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000000722559
ただし、1928-1932年発行の古書ゆえ読みにくい。
現代文では徳田隆による訳出があるものの、三国時代までとなっている。
原文に関しては、京都大学人文科学研究所、中華書局、続国訳漢文大成に当たるべきであろう。他にも、中國哲學書電子化計劃・維基文庫で閲覧可能である。資治通鑑も色々とバリエーションを持つのだが、清で編纂され胡三省が註を施した四庫全書(その中でも北京の文淵閣にかつて所蔵され、現在は台湾の故宮博物院にあるもの)が基準とされている。
通鑑紀事本末とは、編年体の資治通鑑だと各地の事情が飛び飛びに記載されるため、事件毎に章立ててその記事を再構成した本である。事件毎のまとまりで何が起こったかわかりやすくなっているが、一方で資治通鑑から抜け落ちている記載も多いことに注意を要する。
資治通鑑綱目とは、朱熹(朱子)による資治通鑑の大まかな要約「綱」と、朱熹の弟子趙師淵による詳細な注釈「目」からなる。ダイジェスト版かつ朱子学の立場を大きく反映している点に注意を払う必要がある。
・他の選択肢
他にも様々な史書があり、墓誌や考古学的成果を用いることもある。研究者が新たな提唱をするには、これらのアプローチを行う必要も生じるが、まずは今までに挙げた基本資料に通じるべきであろう。
・情報の一般的なスクリーニングについて
ネット上における情報ソースの価値は、ドメインで最初にスクリーニングできる。
「.edu」・「.gov」・「.ac.jp」・「.go.jp」のものは信頼性・安全性ともに概ね優れた情報ソースであると判断できる。中国史に関する日本語ソースの場合、大部分がPDF化された論文となる。
一方で、「.gov」・「.edu」以外の分野別トップレベルドメイン(gTLD)、「.jp」以外の国コードトップレベルドメイン(ccTLD)のサイトを開くときは慎重さをもって対応する必要がある。
安全性を担保する観点から「.jp」の意義を認めているため、本サイトではこれを採用した。ただし、信頼性に関して、教育機関・政府系サイトや書籍など、公共性の高い情報ソースがより優先されるのは間違いない。
書籍に関しては、どの出版社から出ている本か、が極めて重要なファクターである。書籍が重んじられる源泉は、「出版に値する内容か否か」という選別・クオリティチェックを組織的に行い、校正を施したうえで世に出てくることにこそある。そのプロセスが厳正であるほど、本文中の記載への信頼度も高まってくるのだ。
世に出た後の書籍は、読者からのフィードバックを受けながら位置づけられていく。時代を経てもその価値を認められている古典的名著は、やはり優先的に読まれるべきといえよう。
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