南朝から隋唐にかけて、統一王朝や戦国七雄に由来しない、比較的マイナーな国号が出現する。
この現象には必然性があったと思われ、記事を作成することにした。
南朝
五胡十六国において、様々な勢力が乱立し、これらは統一王朝や戦国七雄由来の国号を自称していった。
まず、漢人秩序(西晋)の破壊者として、漢(匈奴漢)趙(前趙・後趙)には拭い難い色がついてしまった。
その後、関東(函谷関より東側)に燕(前燕・後燕)、関西に秦(前秦・後秦)の割拠する時代が半世紀ほど続いた。地理的にも、南朝でありながら北方や西方の国号を選ぶのは体裁が良くない。
楚は地理的に妥当性の高い国号だったが、東晋の簒奪者である桓玄が選択したため、以後使えなくなった。
呉や越は地方政権としての性格を強調するニュアンスがあるようで(北魏は南朝劉宋のことを呉と呼んだ)、春秋時代に中原(黄河中流域の南側、現在の河南省付近は、古来より中華文明の中核と考えられていた)の1諸侯であった宋が南朝の国号として最初に選ばれた。
宋の成立後、魏を名乗る勢力(北魏)が華北を統一し、南朝の天敵として長年対峙することになった。
蕭道成は本貫地の蘭陵郡(山東省臨沂市)が古国斉の範疇ということもあり、七雄の国号として使用可能だった斉を選択した。
蕭衍は蕭道成の傍系として別の王朝を建てることになったが、既に有力な国号は払底していた。七雄として唯一使用可能な韓にあえて選ぶだけの価値は無い。古国周の首都圏における1諸侯であった梁が選ばれた。
侯景は皇帝即位にあたって漢の国号を選択した。侯景は漢中地方(陝西省漢中市)に地縁が無く劉氏でもないが、長期統一王朝である漢のネームバリューは魅力的だったろう。漢を名乗った勢力が、匈奴漢に続いて再び漢人秩序の破壊者となったのは皮肉なものだ。
次に成立した陳は、春秋時代における中原の1諸侯に由来している。
隋唐
宇文泰の周礼に基づいた国家整備は有名だが、長年華北に君臨した魏という秩序を打破するため、これまで手付かずだった古国周の権威に着目したのではないかと思われる。将来的に自身らが周となって、魏から禅譲されるシナリオを想定していたということである。
宇文氏の周しぐさにおいて重要だったのが、有力者を春秋時代の国号を持つ諸侯へ封じる国公である。
国公の封爵は北周成立後の西暦557年に始まり、最初に国公へ封じられたのは、李弼=趙、趙貴=楚、独狐信=衛、于謹=燕、侯莫陳崇=梁、宇文護=晋である(前島佳孝 柱国と国公)。古国衛は中原の1諸侯であったが、戦国時代を経て、秦の統一後もしばらく存続したとされる国である。
559年、楊忠は隨国公に封じられた。これは後に息子の楊堅が建てる隋の基礎となった。春秋時代の隨は湖北省随州市に置かれた1諸侯である。楊堅は隨の「しんにょう」が持つ「走る」の字義に短命王朝の可能性を感じ、「しんにょう」を除いたとされる。
楊忠と同年に国公となった異姓諸侯は、達奚武=鄭、豆盧寧=楚、賀蘭祥=涼、尉遅迥=蜀、尉遅綱=呉、王雄=庸である。涼は春秋時代に存在しないが、五胡十六国を経て関西にて無視できない国号となったのだろう。春秋時代の鄭は中原の1諸侯である。春秋時代の庸は陝西省・湖北省にまたがって存在した小国である。
562年、北周は賀抜岳・賀抜緯の父子に霍国公の爵位を贈った。物故者の功績に対する国公追贈は宇文氏を除くと初の事例であるが、宇文泰の前任者として武川鎮軍閥を率いた賀抜岳であれば納得できる。春秋時代の霍は山西省臨汾市霍州市に存在した。
賀抜岳の兄として西魏で重きをなした賀抜勝は琅邪郡公であったが、死後に国公を追贈されることはなかった。
また、賀抜岳の後継者候補であった寇洛も、生前の京兆郡公のまま、国公を追贈されることはなかった。
564年、北周は李虎・李昞の父子に唐国公の爵位を贈った。これは後に李昞の息子である李淵が建てる唐の基礎となった。春秋時代の唐は複数存在し、山西省翼城県の諸侯国と河南省唐河県から湖北省棗陽市にかけての諸侯国があった。
同年、北周は若干恵・若干鳳の父子に徐国公の爵位を贈った。春秋時代の徐は山東省臨沂市郯城県一帯にあった。
李虎・若干恵は賀抜岳に続く国公追贈の対象となった物故者であり、生前はほぼ同格であったと思われる。
西魏の軍制を語るキーワードとして八柱国十二大将軍はしばしば持ち出される。李虎は柱国大将軍として大将軍・楊忠の上席に置かれ、さらに八柱国の中でも宇文泰に次ぐ2位という序列になっている。対して若干恵は八柱国どころか十二大将軍にも名を連ねていない。八柱国十二大将軍の出典は唐代に成立した周書であり、しかるべき史料批判が必要である。
隋や唐は、より格の高い国号に改める選択肢を取りえた。晋・秦・魏・漢などであれば地理的な違和感は少ない。
なぜ彼らは北周から授与された国号を改めなかったのだろうか(隋は字を改めたが、ある意味そこまでして使用し続けたことになる)、これに対する答えはまだ見つからない。
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